World News Café主催者 飯田美樹
学生時代にパリ政治学院に留学し、世界中の学生が集まるパリ国際大学都市に住む。学校と寮の両方で世界のエリートの卵たちに出会って圧倒され、そこで自分が反論したくても反論できないのは、語学力だけでなく、知力と日本に対する知識が足りないからだと痛感。その後20年に渡り、その悔しさをもとに語学力・知力・日本文化の理解の3つの習得に努める。
留学時代に出会ったパリのカフェに関する執筆活動を行いながら、フランス人向けのガイドやフランス語の長文読解の講師を約8年経験。フランス語習得のために一度完全に英語を捨てたがゆえに、英語には長年苦手意識を持っていたものの、まちづくりの文献を読むために急速に英語力を上げる必要性を痛感。通勤中に毎日BBCを聴き、ダン・ブラウンの小説を原書で読みながら英語力を鍛え、通訳ガイドの資格を取得。
英語、イタリア語を勉強し、フランス語を教えていく中で、語学習得の共通点に気づく。2019年にはG20農業大臣会合でイタリア大臣一向の接遇担当、即位の礼正殿の儀ではフランスのニコラ・サルコジ元大統領一向の接遇を担当。2020年3月のコロナ危機の中、世界が豹変していく中で日本語の情報だけに頼っていて本当に大丈夫なのかという危機感から、World News Caféを開催。参加者に支えられながらこれまで250回以上開催。著書に『カフェから時代は創られる』。時代を変えたパリのカフェのような場になればと願って開催しています。主催者のホームページはこちら。
主催者の想い
立志財団で行われたインタビューでお話しした主催者、飯田の想いをご紹介させていただきます。
飯田:World News Caféでは、海外の新聞記事を参加者全員で読み、世界で何が起こっているのかを理解します。英語力ももちろん身に付きますが、それだけを目的にはしていません。英語力を伸ばすだけでなく、世界に視野を広げることで日本社会の狭い価値観から抜け出し、より自由に生きたい人に向いています。
英語は手段になると面白いんです。そのためには割と上級までいく必要があるので、どうしたらきちんと理解できるかをしっかり教えます。それだけでなく、その先にある世界というか、一人で読んでも分からない背景の解説を大事にしています。なるべくビデオや写真など視覚的なものも使うようにしているので、世界ではこんなことが起こっていたんだ、というのが納得できると思います。
読解にはTOEICで850点とれるような方もいれば、600点程度の方も入り混じって参加しますが、全員が3時間たったら内容を完璧に理解できているのは驚くべきことです。それは、一人で英字新聞を読んでいたら絶対にできません。ネイティブの先生が似たようなレッスンをしても普通はそんなに理解できず、何となくわかったようなという感じで終わりがちです。私の会ではとにかく3時間来れば英語力がゼロであっても他人に説明できるくらい理解できるようになります。それがこの会のすごいところだと思います。
話すことで人生が変わるサードプレイス
―世界の情報を語り合うことを大切にしているんですね。
飯田:そうですね。私はもともとカフェ文化の研究をしています。 “サードプレイス”の研究は日本一しているのではと思いますが、そんな場として機能させたいと思って開催しています。サードプレイスは家庭でも職場でもない第3の場所で、日本では一人でほっとできる場所と思われがちですが、本来の意味は違います。本来のサードプレイスというのは、友達や近所の人と会って、気軽に会話をしてちょっと気が楽になったり、新鮮な刺激を受けたりする場のことです。出会いがあって人と話すことによって自分が変わっていく場なんです。そんな風に世界が広がる場として機能してほしいという気持ちがあり、意見交換の時間を非常に大切にしています。
世界と日本の情報格差
―今の活動はどのようなきっかけで始めましたか?
飯田:私はもともと8年近くフランス語を教えていました。パリでテロが起こった頃から海外と日本のニュースでは流れる内容に随分と差があると感じるようになり、コロナが始まって世界が大きく変わっていく中で、日本語の新聞だけ読んでいて本当に大丈夫?と思っていました。その頃にカフェでニューヨーク・タイムズを読む会を開催していたんですが、東京が緊急事態になって集まれなくなってしまったんです。でもこんな時こそ読まなくてどうすると思い、一人でオンライン開催を決めました。2020年の4月から始めて、2022年6月には250回開催しています。
―日本と海外では情報が違うんですね。
飯田:普段触れている情報の質が全然違うんです。日本だと、海外のトップニュースが全然トップニュースにならないので、海外のテロやわりと大きな紛争など、海外の人がみんな知っている重大ニュースを知らないんです。人身売買や飢餓の話もそんなのあるはずないと思っている人がいます。日本の情報だけだと知らないというのが頻繁にあるのです。約250回開催していますが、参加した多くの人が「恥ずかしながら知りませんでした」と言います。それはあなたのせいではなく日本のメディアの問題なのだと私は伝えます。あなたが情報を得るために努力していないわけではくて、触れている情報の質が低いからいまいち理解ができず、関心を持つまでに至らないのです。とはいえ、日本のメディアを変えるよりは英文読解力を上げた方よっぽど早いため、英語で一次情報がとれる人を増やそうと思っています。
英語で世界の情報に触れる
―英語で読めると情報が広がるんですね。
飯田:100倍かもっと広がります。世界中の情報は英語で飛び交い、日本は中国と違って政府が情報遮断をしていないので海外の情報に自力でアクセスすることが可能です。でも実際には日本語だけで情報をとっていることで、せっかく外国の情報にダイレクトにアクセスできる環境があるのに、それを自分で遮断しているわけです。私がそれに気が付いたのはまちづくりの研究のために図書館に通っていた頃です。東大の図書館にも、東京で一番蔵書がある都立中央図書館にも通っていました。けれども日本語の本だけでは、明らかにパズルのピースが足りないというのが分かったのです。翻訳はものすごい体力がいるので費用が非常にかかります。その費用を払えるあてがない限り翻訳なんて頼みません。だから多くの分野において、世界を飛び交っている有益な情報が日本語には訳されず、日本語だけで情報をとろうとしてもパズルのピースが足りないのです。
基本的に他国のエリート層は英語で情報を読んで、理解できますが、この会を250回開催して痛感したのは、大半の日本人はいい大学を出ていても、多少の留学経験があっても英文記事が読めないという衝撃の事実です。日本語だけで情報をとろうとすると、翻訳情報のつぎはぎなので、往々にして完成像はいびつな形になっています。これを完成像だと思って判断することが一番まずいと思います。原書にあたって英語で世界の情報に触れた方が断然早いし正確です。問題は、日本人は情報があふれていると思い込んで世界と日本の圧倒的な情報格差に気が付いていないことなのです。